内閣総理大臣による日本学術会議会員任命拒否に抗議する(声明)

内閣総理大臣による日本学術会議会員任命拒否に抗議する(声明)

 

 このたび、菅義偉首相は、日本学術会議(以下、学術会議と略す)25期の新規会員の一部を任命しないという行為を行った。任命を拒否された6人はみな、人文科学・社会科学の研究者で、その内の1人は日本近代史を専攻する歴史学者である。人文科学・社会科学の研究成果に目を配りつつ、人類の過去の営みを探求する歴史学の学会として、私たちはこの事態にたいへん憂慮の念をおぼえる。これが日本の将来を誤った方向へ導く起点になるのではないかと思うからである。

 日本学術会議法(以下、学術会議法と略す)によれば、「科学が文化国家の基礎であるという確信に立つて、科学者の総意の下に、わが国の平和的復興、人類社会の福祉に貢献し、世界の学界と提携して学術の進歩に寄与することを使命」(同法前文)に、学術会議は設立された。その会員の選出方法について、同法第七条2に「第十七条の規定による推薦に基づいて、内閣総理大臣が任命する」とされ、第十七条で、「日本学術会議は、規則で定めるところにより、優れた研究又は業績がある科学者のうちから会員の候補者を選考し、内閣府令で定めるところにより、内閣総理大臣に推薦する」と規定する。つまり、学術会議が「優れた研究又は業績がある科学者」を選定して推薦し、それに基づいて内閣総理大臣が任命することになっている。この法律では、会員の選出と任命は研究・業績が唯一の判断基準である。

 しかし、今回の首相の行為はそれ以外の基準を持ち込んだことが疑われている。6人の研究者を任命しなかったことについて、首相はいまだに多くの人が納得できる理由を説明していない。学問に基づく政策提言や社会的発言を期待される学術会議の会員任命にあたって、研究・業績以外の判断基準が政府によって持ち込まれたとすれば、それは重大な学術会議法違反であり、同法第三条に規定される学術会議の「独立」を危うくするという点でも学術会議法の精神に反する。学術会議が国費を使って運営されていることを理由に、政府がその会員人事に介入するとなれば、国立大学・私立大学を問わず日本のすべての大学の人事にも介入できる道を開くことになり、大学の自治や学問の自由をも脅かすことになる。

 現実に、戦前、刑法学者の滝川幸辰が京都帝国大学を休職処分の上、辞職することとなった滝川事件や、歴史学者の津田左右吉が早稲田大学を辞職することに追い込まれた津田事件などが起こっている。これらを含めた学問弾圧の延長線上に悲惨な戦争が引き起こされたことを忘れるべきではない。その意味で、今回の首相の任命拒否は、日本の学問にとってだけでなく、日本の将来にとってきわめて危険な行為である。

 一方、学術会議のあり方について一部で疑義が出され、行政改革の一環として議論しようという声がある。これは明らかに論点ずらしである。加えて、あたかも学術会議が既得権益を持っているかのような誤った情報が流されたばかりでなく、不正確のまま拡散され、社会が分断されていることも看過できない。学術会議が果たしてきた役割が正しく認識されることを望む。

 この間の一連の学術会議をめぐる騒動は、菅首相の違法行為から起こっている。一刻も早く、首相は自らの行為の非を認め、今回任命を拒否された6人を学術会議の会員として任命することを強く求める。

 

20201020

東京歴史科学研究会委員会

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