安倍政権による一連の教育制度の改悪に反対する声明

 2006年、第一次安倍政権は、教育への国家統制強化の道を切り開くために、教育基本法を改悪した。そして、一昨年末に発足した第二次安倍政権は、教育に対する支配・介入をよりいっそう強化している。一連の政策の中でも、特に(1)教科書検定関連の規定の改悪、(2)教育委員会制度の改悪、そして(3)大学自治の否定は、見過ごすことのできない重大な問題を抱えている。

(1)教科書検定関連の規定の改悪について
 昨年11月15日、下村博文文部科学大臣が発表した「教科書改革実行プラン」に基づき、2014年1月17日に文部科学省は改悪した教科書検定基準を告示した。そこでは、①「近現代の歴史的事象のうち、通説的な見解がない数字などの事項について記述する場合には、通説的な見解がないことが明示されているとともに、児童又は生徒が誤解するおそれのある表現がないこと」、②「閣議決定その他の方法により示された政府の統一的な見解又は最高裁判所の判例が存在する場合には、それらに基づいた記述がされていること」との文言が追加された。
 ①については、第一に「通説的な見解」とは何かという論点は、学界における議論に委ねられるべきことである。「通説的な見解」の有無を国家が権力的に決定することは問題である。第二に、戦争や植民地支配に関して、学問的には成り立たない説をとりあげることで、「通説的な見解がない」という結論を導きだし、戦争責任・植民地支配責任を曖昧にすることが意図されている。
 ②は、政府見解や最高裁判例が正当な説であるとして記述することを、検定合格の要件としたものである。たとえば、現行憲法において集団的自衛権の行使は認められるとの政府見解が、正しい憲法解釈であると位置づけて記述しなければ、検定不合格になるといった問題が生じることが憂慮される。教科書の事実上の「国定化」につながる危険性をはらんでいる。
 次いで、文部科学省は、2014年4月に教科書検定審査要項を改悪した。同要項には、「教科書としての基本的な構成に重大な欠陥が見られる場合等に検定不合格と判定する方法について、教育基本法に示す教育の目標並びに学校教育法及び学習指導要領に示す目標等に照らして判断する旨を明確化する」との文言が追加された。現行の教育基本法には「我が国と郷土を愛する」態度を養うとの目標が掲げられている。国家が定める思想と教科書が合致するかどうかを、審査基準とすることは、重大な問題である。
 そもそも教科書検定制度自体が、国家による教育に対する不当な介入であり、違憲であると考えられる。今回の教科書検定関連の規定の改悪は、こうした検定制度の問題性をいっそう増幅するものである。

(2)教育委員会制度の改悪について
 2014年6月13日、教育委員会制度を見直し、自治体の長(首長)の権限を強化する改悪地方教育行政法が成立した(2015年4月施行)。
 従来の教育委員会制度は、戦前における国家による教育の支配・介入の反省から、戦後に制度設計されたものである。教育の地方分権・自主性の確保・民主化を柱として、権力が教育に直接介入できないようにつくられたものであった。当初は、公選制により合議制執行機関として教育委員会制度が運用された。その後、首長による任命制とされることで、当初の理念は後退させられた。そして、昨今では、「日の丸・君が代」を学校現場に強制するなどの形で、教育委員会は教育現場を圧迫する存在となることも少なくない。しかし、こうした限界を持ちながらも、現行の教育委員会制度は、首長の教育行政に対する影響力に、一定の歯止めを利かせる役割を果たしていることも事実である。
 改悪法では、従来の教育委員長と教育長を一本化し(新「教育長」)、この新「教育長」は首長が直接任命できるとされている。新「教育長」の権限は大幅に強化され、住民の代表であるべき教育委員会の独立性は失われることになる。また、首長は総合教育会議を設置して、教育行政の指針となる「大綱」を策定するとした。教育委員会はこれに従属させられることになる。
 したがって、改悪法は、従来の制度を根本から否定し、これまで以上に教育に対する権力の支配・介入を強化するものである。

(3)大学自治の否定について
 2014年6月20日、学長の権限を強化し、大学の自治を否定する改悪学校教育法・国立大学法人法が成立した(2015年4月施行)。
 改悪された学校教育法では、大学において教授会が審議する事項を学位授与や教育課程の編成等に限定し、教育研究と不可分な人事・予算等を審議させないといったもので、教授会の諮問機関化をはかるものである。これによって、学長の権限が全面的に強化されることになる。また、改悪国立大学法人法は、現状でも十分に民主的とはいえない学長選考の方法を、よりいっそう大学構成員の意向が反映されない形に変えるものである。政府の意向に沿う政策を進める学長が選ばれ、国家権力による大学への介入が容易に行われるようになることが、憂慮される。
 大学は、国家権力等からの統制や干渉を避けるため、大学の自治を確立してきた。大学の自治は、憲法で保障された学問の自由を守り、民主的な社会形成のために、必要不可欠なものである。今回の政策は、この大学の自治を根幹から破壊するものに他ならない。

 以上の一連の政策を通じて、安倍政権は教育に対する権力の不当な支配・介入を強化する動きを強めている。これらは日本の民主主義を大きく後退させるものである。強く抗議するとともに、政策の抜本的な転換を求める。

2014年8月4日 東京歴史科学研究会