自由社版・育鵬社版教科書採択に反対・阻止するための緊急アピール

2012年度から使用される教科書の採択が各地ではじまっています。今回採択の対象となる中学教科書は、安倍政権下の06年に改定された新教育基本法に基づく新学習指導要領に拠って編集されたはじめてのものとなりますが、歴史と公民はそれぞれ7社7点が発行されています。

そのなかの自由社版・育鵬社版教科書は、ともに「新しい歴史教科書をつくる会」(以下:「つくる会」)が編集した扶桑社版教科書の後継ですが、その偏狭な思想に基づく主張や単純な誤り等をほとんどそのままに受け継いだ、極めて問題の多い教科書です。「つくる会」のメンバーは、1996年の結成以来、日本軍「慰安婦」や南京虐殺事件、沖縄戦での「集団自決」に関する記述、ジェンダーフリー等について執拗な攻撃をすすめてきた人たちです。両教科書は歴史学の研究成果よりも彼らの主張を優先させ、極めて一面的な記述に溢れています。たとえば、日本国家や日本人の「優位性」をことさら強調した上で、日本の植民地支配や侵略戦争を美化する目的の下、南京虐殺事件や日本軍「慰安婦」の歴史事実を否定しています。また、平和主義や男女平等など戦後民主主義が育んできた価値観や、日本国憲法の意義を「押し付け憲法論」を用いて一蹴しています。沖縄戦下の「集団自決」に関しては、高校教科書検定の際に日本軍の強制性の記述を削除させた問題が、県民の激烈な抵抗を招き、文部科学省が訂正申請を受けつけざるをえない事態となったことは記憶にあたらしいところです。加えて、「大江岩波沖縄戦裁判」での被告・大江健三郎、岩波書店両者の全面勝訴が決定打となり、他の教科書では「集団自決」に関する日本軍の強制性についての記述が復活しています。しかしながら、自由社版・育鵬社版はそれらの記述を避け続けています。そのうえ、両教科書は検定を通ったにもかかわらず、付けられた検定意見数がそれぞれ育鵬社版150件、自由社版237件と、歴史教科書全体での平均件数116に比し多いことも問題視されています。訂正申請以後もなお50以上の誤りが指摘されている自由社版においてはさらに、掲載する年表が他社版の盗用であることが発覚しました。代表執筆者である藤岡信勝氏もこの事実を認めています。また、育鵬社版についても、琉球王国時代の地図に関する盗用が明らかとなりました。

このように、自由社版・育鵬社版教科書においては、歴史観の問題性や事実の間違いのみならず、執筆者のモラルでさえも疑われるべき事態が詳らかとなっています。このような教科書が検定に合格していること自体、教科書検定の公正性を疑わざるを得ません。これらの教科書が採択された場合、教育現場に混乱を招くことは必定であり、未来を担う子どもたちの教育の糧とはなり得ません。それにもかかわらず、日本教育再生機構、「教科書改善の会」、「つくる会」、日本会議など右派勢力は、育鵬社版・自由社版教科書を採択させるために、地方議会において「教育基本法や学習指導要領の改正の趣旨に最もふさわしい教科書の採択」を求める請願を採択するなど、国会や地方議会を利用して、不当な教科書攻撃や宣伝活動を全国で展開しています。また、彼らの「教科書運動」を支持する首長や教育委員にはたらきかけて、委員の無記名投票によって採択を獲得するというやり方が前回に引き続き行われています。このような手法によって、すでにいくつかの教育委員会は両教科書を採択しました。議会が請願や決議等によって教育委員会に圧力をかけるのは、紛れもない教育に対する不当な政治介入であり、教育基本法に反することはおろか、1976年の「旭川学力テスト事件」最高裁判例に抵触し違憲の恐れもある行為です。

私たちは、教育を政治の手段として利用する動向に強く反対し、教育は国家の不当な介入によることなく、現場の教師や子どもの主体性や自由意思を尊重して行われるべきものであると訴えます。そのような立場から、教育のための教科書という本来の目的を度外視し、政治手段のひとつとして作成された自由社版・育鵬社版の教科書採択に断固として反対します。

2011730日 東京歴史科学研究会